ロンドンの日記その2—ロンドンの住宅建築
「なんとなく、こういうことを書くことを期待されている気がする…」ということで(そうでもない?)様式の話をば。でも、正直、細かいことはよくわからないんですがね…。
「ヴィクトリアン様式」とか「チューダー様式」とか、そういうやつです。お暇な方(建築学科以外)は話のネタにでもどうぞ。
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ロンドンの街並は、「日本人が思い浮かべる外国の街並」にかなり近いものがあります。
それは、明治期に入ってきた西洋建築の多くがイギリス由来だったからであって、当たり前といえば当たり前なんですが…。
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ロンドンの街にある建物は、だいたい18〜20世紀の間のものだそうです。新しそう、とか、古そう、とか、なんとなくわかりますが、古いといっても17世紀以前のは普通、ない。
特に、19世紀から20世紀のはじめにかけては、さまざまな過去の様式が復古しました。だから、例えば、クイーン・アン様式といっても、アン女王時代(1707-1714年)に建てられたというわけではなくて、そのころの様式が19世紀にリバイバルして建てられたものだったりするので、ちょっと、ややこしいのです。
<ヴィクトリアン様式>
これは、ヴィクトリアン様式といわれる様式のテラスハウスです↓ヴィクトリア女王の時代は、1837-1901年。19世紀の建物です。
晴れていると、煉瓦の赤が空の青に映えてそれはそれは美しい。元気の出るような街並です。
カドカン・スクウェア(スクウェアとは方形の広場のこと)のあたりには、有名な建築家であるノーマン・ショウが手がけた住宅があると聞いていってみたのですが、ぶっちゃけ、どれなんだかわからない;^_^A
一面、赤煉瓦。
ノーマン・ショウが手がけたもので、もっとわかりやすいのは、旧スコットランドヤード=いまの国会議員宿舎で、ウェストミンスター橋の脇に建っているものだそうです。今回はみそびれたのですが、今度いったらぜひみたいもののうちのひとつです。
後期のヴィクトリアン様式のなかには、赤い煉瓦に白い石をまぜてシマシマにしたり、頭に塔を持つようなものもあります。(上述のスコットランドヤードもしかり。)こういうのを、特に、クイーン・アン様式と言ったりします。上でいったように、ややこしいのですが、アン女王時代の建築風、ということ(実際はそうでもなくてもっと自由なものらしいですが)。下は、セント・ジョンズ・ウッドのあたりの住宅です。
クイーン・アン様式といえば、明治のイギリス派建築家・辰野金吾もよく使った様式です(その独特の様式は「辰野式」といわれたそうです。)
東京駅もそうした建築のうちの一つです。
ところで、ロンドンにも、ヴィクトリアン様式の駅ーそれも超大作ーがあります。
史上最多作の建築家・G.G.スコット設計、セントパンクラス駅。
この豪華さ。どなたかのお城だったのですか?という感じですが、
これは、ちゃんと駅として当初から建てられた建物で、クイーン・アン様式が台頭する前、1877年に完成したものです。はじめはホテルとしてもつかわれていたそう。
古く見えるのは、わざと古い様式をつかったからです。
「十四世紀ゴシックによる折衷様式と言われるが、実際には中世にはこれ程の大規模な世俗建築はないのだから、様式が一種独特の創作物となるのも仕方のないことであった。つまりは、十九世紀のヴィクトリアン・ゴシック様式なのである。」(鈴木博之「ジェントルマンの文化」)
特に、同じ本の、ここのくだりが大好きです。
「彼(スコット)自身、セント・パンクラス駅についてこう語っている。
『これは、ロンドンで一番奇麗な建物だと私に言う人が多い。私としては確かにこれは駅としてはすこし立派すぎるようにも思う。』
スコットの得意思うべしである。」
最後、これはカドカン・スクウェアにあるテラスハウスの一つ。
一つだけやたら凝ったつくりをしていて、気になってしかたがなかったのですが、由来はよくわからず。万が一、知っている方がいたら教えていただきたいものです。
<ジョージアン様式>
煉瓦造りのテラスハウスでも、赤煉瓦ではなくて、ちょっと黄土色っぽい煉瓦や、黒っぽい煉瓦があります。これはヴィクトリアン女王より前、ジョージ1世-4世(1714-1830年)の時代のものであることが多く、ジョージアン様式といわれます。
この煉瓦は焼く温度が赤煉瓦より低い煉瓦です。
リージェントストリートの終わり、セント・ジェームズ・パークのほとりに「カールトン・テラス・ハウス」という住居があります。
設計は、リージェントストリートの設計者、ジョン・ナッシュ。まるでひとつの大建築のようですが、いくつかの住居がよせあつまって、一つの集合体となっています。ちなみに、このドリス式柱は鉄骨だとか…。
これも、ジョージアンの建築です。「どこが?」って感じですが、スタッコ(漆喰)を一枚はげば、黄色い煉瓦がおでまし、ということ。
<閑話休題>
ところで、煉瓦の積み方で、イギリス積みとフランス(フレミッシュ)積み(あといちおうオランダ積みも)というのがあり、建築学科にきてから、かなり最初の方に覚えさせられました。
で、イギリスで煉瓦建築を見た私は、「あ、そうだ、これが本場のイギリス積みのはず!」と思って、その場で適当な煉瓦建築物をぱちり。
そして、家に帰ってみてみたら。
あれ???
フランス(フレミッシュ)積みじゃん…。
っていう。
その場で気づかなかったのはどうかと思いますがね。
<チューダー様式>
いわゆるチューダー様式というのは、ハーフティンバーという木造建築で、日本人にとってはけっこうなじみのあるものです。
ただし、これもクイーン・アン様式と同じく、ロンドンにあるのはチューダー朝時代(15〜16世紀)のものではなくって、古そうでも19世紀〜20世紀初頭にかけてリバイバルしたものがほとんど。
ね、こういう建物、日本にもあるでしょう?
三井ホームなんかではその名も「チューダー」という家を商品として扱っていたりします。なんで日本でチューダー様式を建てなきゃいけないんだろう…とちょっと悲しくなるところでもあります。
これが、外国っぽく見えるのは、日本よりも木材の感覚がせまかったり、斜めの部材が入っていることに起因します。斜め材がカーブしてるのは、私は、ロンドンに行ってはじめて見ましたが。
「リバティ・プリント」とかで有名なリバティ百貨店は、チューダー様式の立派な建物です。
<テラスハウス>
と、そういえば、「ヴィクトリアン様式のテラスハウス」とか書いていて、「テラスハウスとは何ぞや」と思った人もいるかもしれませんが
テラスハウスとは、接道型(玄関あけたらすぐ道ってこと)の都市住宅のタイプで、隣の家との隙間をほとんどあけずに並んだ住宅のことです。
でも、ポイントは入り口にあって。
すべてテラスハウスは、道から半階分だけ階段で上がるようになっています。
そして、よく見ると、道から半階分だけ下がる階段もあるのです。
うまいこと、主玄関と勝手口のつかいわけをしているわけです。
そして、建物は道に面しているけれど、庭がないわけではなくて、庭は建物の裏にあります。外からは見えない、完全にプライベートな庭なのです。
テラスハウスたちは、白いスタッコの部分もあまり汚れがみられないのですが、時々、ペンキを塗り直したり、修理している人をみかけました。
ウワサに違わず、ほんとうにきちんとお手入れしているんだなあと感心。
<ブルー・プラック>
ロンドンの見所と言えば、赤煉瓦、赤いバス、赤い公衆電話…、と赤ばっかりのイメージですが、
では、ロンドンの青いみどころ、といえば?
もしかしたらいろいろあるかもしれませんが、ひとつはブルー・プラックです。
これはロンドンの至る所に貼付けられた円盤型のプレートで、「(すでに亡くなった)著名人が昔すんでいた家」をあらわすものです。
ブルー・プラックはかなりの数があって、専用のガイドブックが出ているほどらしいです。
正直外国人の身からは、さっぱりわからない人ばかりですが、それでも見つけたらちょっと嬉しいし、それがもし知っている人だったらなおさらでしょう。
「ああ、ここが」と思うだろうし、特別な思いを抱くと思います。これは、家を長く持たせる国民意識をたかめるのに、相当いい方策なんじゃないかと思ったり。
ちなみに、これは、かのシャーロック・ホームズのブルー・プラック。ベーカーストリート221B。
ジョージアン・ハウスにすんでたみたいですね。
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